小沢健二 / Ecology Of Everyday Life 毎日の環境学

spiton2006-03-27


背表紙の裏側に書かれた言葉が、このアルバムの本質を表しているような気がしてならない。


〜おそろしい仕組みを作って人々をいじめていた者たちと、
「仕方がないよ、そういう仕組みなんだから」と従い続けていた者たちは、
ある日、とつぜん町の中が騒がしくなったかと思うと、
次の日には、かならずパンツ一丁で逃げまどうことになるのでした。


灰色は、その歴史を、
なるべく人々に見せないようにしていました。
それは、あまりにも大きな、
楽しさとか、喜びとか、希望とか、優しさとか、おもしろさを、
人々に与えてしまうからでした。〜


村上春樹の諸作には必ずと言っていいほど、その根底にシステムやら“見えない力”に対してのアンチテーゼが組み込まれているが、これは彼の作品に限ったことではなく、優れたアート作品全般に言えること。Radioheadの近作は勿論その一つだし、『キューブ』や『ハウルの動く城』だってそうだ。そうした帝王やカオナシやみくろに支配された世界から抜け出すための手段としてアートは存在するものだし、時には大きな対抗勢力を生むきっかけとなることもある。というか元来ポップとは、そうしたカウンター・カルチャーそのものだったはずだ。本作はそうした音楽の(小沢の)持つ力を全方位に向け開放させた、ポップの結晶。全曲インストなので“あの声”を聴くことは出来ないが、難しく考える必要はない。さらりとボサノヴァのリズムを取り入れたM3など、まるでスーパーマーケットのBGMとして鳴っているのような楽曲が多いが、それはスーパーマーケットで鳴らされているBGMにボサノヴァのリズムが組み込まれているからであり、フュージョン / AOR色も強いこのアルバムは我々の生活に寄り添うという意味において、紛れもなくポップだ。そう、資本主義経済の末端とも言える日本に暮らす我々にだからこそ、このポップは響く。唯一の心残りは少々デジタル臭さを残す音作り。環境学というからにはもう少し丸みを帯びた音にしても良かったと思ってしまうが、これも彼のメッセージの一つなのだろうか。


Best Track : #2 Voices From Wilderness 未墾の地よりの声