Asian Kung-Fu Generation / ファンクラブ

spiton2006-03-16


アジカンというバンドに寄せられる周囲からの期待に堅実に応えつつも、彼らの音楽的な好奇心を見事に作品に反映させた、健やかで本当に素晴らしい作品。そう、アジカンは実に器用なバンドだ。約2年半前にポップシーンに登場した当時の彼らは、どこか90年代の申し子的なポジションに位置づけられ、その特異な存在ばかりがクローズアップされていた状況にあった。それは決して間違いではないし、実際彼らの音楽的なルーツの多くが英米を中心とした、90年代のオルタナティヴミュージックにあると思う。しかし、1st『君繋ファイブエム』はパンクミュージックとしての、ハードコアで粗野な部分を持っていたし、何より2nd『ソルファ』を聴けば本当に曲の書ける、ソングライティングに優れたバンドだということがよく分かる。つまり、彼らはとても多面的なバンドなのだ。今作では前作に収録された“サイレン”辺りの、実験的な方向性を推し進めた曲が多く見受けられ、どちらかというと「10代がバンドを始めるきっかけになりたい」と語っていた時期は終わったのかもしれない。The Strokesが年明けに見せた最新作と同じように、このアルバムは単なるロックバンドの枠で語るには、情報量が多過ぎるように思う。それでも彼らが書く曲に常にポップが寄り添うのは、彼ら自身の「繋がっていたい」という意思の表れであり、何より性分なんだと思う。最終曲M11は日本におけるエモのパイオニアEastern Youthへのオマージュとも言える、隠れた名曲。夕暮れに佇み、無常に立ち向かおうとする情景が浮かんでくるような後半が力強く、最高に美しい。


Best Track :#3 ブラックアウト